市沢真吾 × 千浦僚 対談
    「第三の映画」談義

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意味より先にあるもの

 

千浦 「わたしの余白にあなたたちがいる」ってコピーがいいよね。隙間産業だね。魂の隙間産業。
小田 
それもうやばいです(笑)。魂の隙間産業。
千浦 
映画の中でね、宇宙人たちが世界を理解するために、彼らの風習の中では映画を撮るっていうような言い方とか認識じゃないかもしれませんけど、カメラ回してマイク振ってるっていうのは僕は本当にすごいリアリティが感じられて。映画観てる我々、っていうか自分とか映画撮る人っていうのもそういうことなんじゃないかって。で、彼らは人間たちには見えてないけどいるっていう風にね、ずっとやってて、で、あの横移動してた時に、ほんとにドラマとして撮ってる、フィクションのこのカメラと向かい合いながらやってるじゃないですか。あの時に僕はもうほんとに、めちゃテンション上がった。今客席で観てる僕たちをもあのモコモコ星人たちが撮ってる気がして。
吉川 
それは、深谷の強瀬さんと同じ意見ですね。モコモコ星人が持ってる鏡があるじゃないですか。あの鏡に自分が写るんじゃないかって気になるというか。
千浦 
そう、そうですよ。
市沢 
そういう上映の仕方ってできないんですかね。
中川 
どういうことですか?
吉川 
モコモコ星人があらわれたらいいんじゃないですか? 寺山修司みたいに、スクリーン突き破って。
千浦 
スクリーンから人が出入りするパフォーマンス・実験映画『ローラ』ね。あの突き破るスクリーンはゴム包帯でつくってるんですよ。作ったよ。シネ・ヌーヴォで、大阪にいた時に。やる?……それにしてもみんなモコモコ語うまいよね、あれ。なんなの? 書いたのがあるの? それって卓爾さん?
中川 
そうです、卓爾さんが書いたのが大半。
小田 
あとは勝手にアドリブでやってるところもありますね。
吉川 
俺モコモコ語はすごい可能性を感じるというか。何語でもない言語をしゃべる映画って、すごい面白いなと思って。架空の言語。
千浦 
わかっちゃうけどね。
吉川 
『スターウォーズ』とかのちっちゃいやつとかも架空の言語喋ってるけど。
千浦 
緑の惑星ね。イウォークね。
吉川 
そう、イウォーク族とか。まあでも架空の言語を発声としてしゃべってるというのはすごい面白い。それを理解する人は誰も地球上にいないわけで。
市沢 
アテネ・フランセで無字幕の外国映画を観てた時の感触に近い。実際の意味が当たってようがなかろうが、おそらくこういうこと言ってるんだろうなって類推して楽しむ。
中川 
あれ、どれくらい具体的にイメージできるものなんですか?
市沢 
行動と、たまに聞こえてくる日本語に似てる音が補完してる。
吉川 
やっぱアクションを観ちゃうんですよ。意味じゃなくてその人の行動とか、だから「活劇」。やっぱ動きですよ。最初は日本語訳の字幕を入れようとしたって聞いたけど、なくて正解かも。
市沢 
字幕がついちゃうと一個の意味になっちゃうからね。
吉川 
さっきの『ワンピース』の話で『演出×出演』ていうタイトルの映画があるんだけど、あるシーンを撮ってる監督が「はいカット!」とか言って、違うんだよ違うんだよっつってやり取りがあって、それをさらに、「はいカット!」っつってどんどん外側に行く。それが五層構造くらいになってて、ほとんどドリフのコントみたいなんだけど、でもこんな初期からこういうメタの多層構造が発想としてあったんだなって。それとね、一つの空間で時空が別の二組が同時にそこで演技してるのも何本もある。要するに、見えない隣人が同時に演技してるってこと。
川口 
なんか、そういう意味で最初につくったのが『街灯奇想の夜』っていうアニメだったのがすごい納得ができます。普通アートアニメでも背景も人物も全部一枚で描くけど、卓爾さんのはちゃんと背景と人物とエフェクトそれぞれのレイヤーがあって。
千浦 
本人も、別々に動いてるのが良いって言ってましたもんね。
川口 
卓爾さんに聞いたら、自分はへたくそだったからできなかったって言うけど、背景の動きと人物の動きがシンクロしないのも、俺にはわざとやってるように見えたんです。そういう解釈は今からはできる。前景・中景・後景じゃないけど、いろんなことを多層的にやるのが好きな人なんですよ。
吉川 
最後に、諏訪さんが言ってた観客を信じることについて、ドゥルーズの話とも結び付けて語られた話を。映画に糸がついてるUFOが出てくるけど、こんなのウソに決まってるじゃないですかって。でもこれはここにあるんです、っていう話をしてて。それはほんとにそうだなと思ってて。それはなんかもう、あるんです、ここにはUFOがあるんです、と。それが映画だから。
川口 
信頼すべきUFO。
吉川 
そうそう、信頼すべきUFO。それはね、金かけてリアルなものつくるっていうのとはちがう何か映画の可能性がある。
川口 
まあ実際はあのくらいは今時消せるんですよ、我々の手でも。
千浦 
まあでも、糸はね、意図して。
川口 
意図された糸なんで。
千浦 
それが、良いと、思ってね、やってるわけだから。
市沢 
出た……もうちょっと続けてみようか。
千浦 
良いよ、もう。
市沢 
この感じですよ、私と千浦さんの13年。
千浦 
ははは、ひでーな。
(了)

 

 

────────────────────────────────────市沢真吾(いちさわ・しんご)
1977年生まれ。映画美学校フィクション・コース第1期修了生。現在、映画美学校事務局員。『ジョギング渡り鳥』のモコモコ星人たちは、同じ時期に全く別のパラレルワールドを生きていた。深谷を離れ都内で普通の社会生活を営みながら、しかしその日常から抜け出したいともがく者もいた…。万田邦敏監督『イヌミチ』を『ジョギング渡り鳥』の後に、そんな視点で観ると面白い。

 

千浦僚(ちうら・りょう)
1975年生まれ。90年代は大阪でプラネット、シネ・ヌーヴォ、扇町ミュージアムスクエア、東梅田日活の映写を担当。2002年上京、同年より2009年まで映画美学校試写室映写技師。2010年2011年頃はアテネ・フランセ文化センター、2011~2014年はオーディトリウム渋谷でバイト。現在は准無職の雑文書き。

 

2015年10月23日 映画美学校(東京)にて

聞き手:吉川正文、中川ゆかり 写真:小田篤 録音:川口陽一 

構成:中川ゆかり 文字起こし:古屋利雄

 

 

 

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