市沢真吾 × 千浦僚 対談
    「第三の映画」談義
 

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はみってる耳

 

市沢 あれはやっぱり、合宿の効果なんですかね。合宿しながら、シナリオの決まっていない映画を撮るなんて「え、それって小川プロ?」かと。
千浦 
ああ、そうね。
市沢 
でっかい世界をまるごとばあって包み込むところを、暮らしながら撮る。実は触れた感触も、自分の中では小川紳介作品とそんなに変わらないかもしれない。排除できないものがいろいろ写っているのにそれを制限しない感じ。だからといって無方向でもなくて、普通は夾雑物といわれてるものに囲まれながら、そのうち大きなうねりが見えてくるという感覚は、実は近しいなっていう。空気感っていっちゃうと抽象的だけど、でもそういった、その場にいること、場所になじんでるっていう意味での実在感、そして見た後の戸惑い感も含めて、やっぱり面白いドキュメンタリーを観た時と似てる感じがしたんですよね。
千浦 
はいはい。そうね。
市沢 
いろんなもんが写ってるから、すぐには把握できないなっていう感触。
千浦 
なるほどね。逆にすごいお話としてよくできていて面白い映画は、この方向行くなって分かってるけど面白いし、ある種の方程式や型があると思うんです。だけどかなり長い間、終わるときまでこれどこに行くんだろうって思いながら観るのはなかなかないし、なおかつそれで見せ場みたいなところはちゃんと面白いっていうのは珍しいですよね。それをやる方程式っていうのは、やっぱりないんじゃないですかね。
市沢 
そうですね。
千浦 
PFF上映後のトークで、思いっきり無駄なことやりまくったって卓爾さんが言ってて、本当にそうなんだろうなと思いましたね。通常は効率が常に優先されるところがあるけど、そうしなかった、という。僕はゴダール信者なんでいろいろ発想に影響受けてますけど、彼の作品『映画史』でテーマになってるのもそういうことだと考えてる。商業的な意味での映画の成り立ちは、お話があればみんながそれを商品として享受できるし、作る側もお金を集めることができる、と。企画書があってシナリオがあってプロデュ―サーが判断を下して……、それが映画史の始まりに起こったことだ、みたいなことを『映画史』の最初のほうの章で言う。それはすごい真実だと思うんですけど、ただそこですでに落とされちゃった、この、なんか映画の「はみってる耳」みたいなものがあるわけじゃないですか。
市沢 
はみってる(笑)。そうですね。
千浦 
それをね、なんかすげえ保ったというか発見してやりまくったというのは『ジョギング渡り鳥』の魅力だと思う。
市沢 
僕は学校にいるからかもしれないんですけど、「どうしてこういうことができたんだろう?」って言葉にしたくなっちゃうんですよ。それを卓爾さん個人の才能、と一言で終わらせるのではなく。なにがワクワクするところなんだろうとか、なぜかずっと考えてしまうけど、言葉にしたらしたでずっと堂々めぐりしちゃうんですよ。たぶん答えにはたどり着かないんですけど、大事なのは「どうしてだろう?」という話をすることなんじゃないかなって。
千浦 
まあね。
市沢 
なんだろうねこれ、って話すこと。今日がその一回目だとしたら、これを読んだ人や映画を観た人同士でそれぞれ話してもらって、それを聞いた人がまたそれぞれでなんでだろうねって言うと、なんか、ちょっと世の中面白くなるんじゃないかなって。そのために今喋ってるところがあるんです。
千浦 
ねずみ講のシステムみたいですね。
市沢 
そうですね(笑)。「君がちょっとしゃべればそれがさらに倍々で広がってくから」みたいな。
千浦 
話変わりますが、『ジョギング渡り鳥』は女性がみんな可愛らしい。男はね、またみんな程よくやさぐれてて、よかったですね。今ってみんなすごい型に入って焼かれたようなイケメンばっかりじゃん。しゃらっとしててフィギュア選手っつうかホストっつうかさ、画一化されてるじゃないですか。この映画では見事にそれからちょっと外れてた。新藤兼人の独立プロ映画に出てくる労働者みたいな男がさ、いっぱい出てくるじゃないですか。それがすごい良かったですね。
市沢 
あ、この世界いいなって思ったポイントは、矢野(昌幸)くんが最初に出てきたときかな。片腕で竹とんぼ飛ばそうとして「飛ばねえなあ、上手くいかねえなあ」って台詞を聞いた瞬間に、なにか、この世界で生きてる人の感情を観た気がしたんですよね。片腕しか利かないんだけど、でも竹とんぼを飛ばしたいっていうのを繰り返しやってる、その、なんていうかな、さびしさ、わびしさ。
千浦 
うん。
市沢 
でもそれが苦であるわけでもなく、受け止めて生きているな、っていうことが、なんかこう、ふぁあっと見えてきたんですよね。いろんな人が、この町の中で頑張って生きている。そのことのちょっとした寂しさが…。
千浦 
市沢くんさ、自分で言いながら良い話風になっちゃうのなんでだろうって思いながら言ってるよね(笑)。まあ言ってる通りなんだけど、なんかさらにこぼれるものがあるんですよね。
市沢 
(笑)。たぶんそうなんですよ。そういうことだけで成立してるわけじゃないから。
千浦 
そう、それがだからやっぱり、豊かさですよね。
市沢 
そうなんですよね。
千浦 
て言うとまた、良い感じあるよね(笑)。


 

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