市沢真吾 × 千浦僚 対談
    「第三の映画」談義
 

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3年間のリアリティ

 

吉川 俺は何回観ても撮影も音響もすごく練られていて、考え抜かれて付けてるなっていつも思うし、やっぱりここ最近ずっと思うのは、鈴木歓さんの編集はやっぱりすごいなって。
川口 
ほんとにすごいんですよ。
吉川 
くり返し観るとやっぱりそれが感じられる。だからその場にいる人たちをざっくり撮ったものをざっくり映画に仕上げたっていう映画ではない。一見たぶんそう見える人もいるかもしれない。この、役者の無名性とか演技力とか構成とかあるいはUFOの糸が見えてる、なんだこれはっていうことを気にする人であればそういうことを思うかもしれないけど、すごい練られてるなって、僕は思いますね。
市沢 
その出発点が設計図ではないんだね。出発点は曖昧で不確かなものをやってるんだけど、それを肉付けしていくことに関してはすごく練られていて構築されている部分もある。
吉川 
だってこれ、ポスプロめちゃくちゃ時間かかってるでしょ。
川口 
2年ポスプロですね。
千浦 
バージョン違いとかね。
吉川 
今普通に言ってるけど、ポスプロに2年とかかけるなっていう話だけど(笑)。2年かけて脚本書くとかはわかるけど、2年かけて編集をする(笑)。
小田 
さっきの中瀬さんのカメラの話でも、一期撮影と二期撮影の間に約1年間の間が空いていて、そこで変わってるんですよね。彼の画が。
市沢 
そうか、確かにそれも反映されるよね。
千浦 
お金がない中で、かけられるのは時間。その自由さもあったかもね。
川口 
あんまり練って良いのかっていうのは常に思ってはいたんですけどね。
吉川 
それは鈴木卓爾っていう人の、こういってよければ、作家性に帰着するのかも。僕も『ポッポー町の人々』一緒にやってて思ったんだけども、本人は意識してるかわからないけど、むちゃくちゃ考えるじゃないですか。現場でもポスプロでも考えるし編集もすごい粘るし、いつまでたっても最終版が出来上がらない。それはたぶん『ジョギング』も一緒だと思うんですよ。常に暫定版。こないだやっとPFFの壇上で、これでもう変えないと思いますとか言ってたけど(笑)。
中川 
そこはそろそろ、大丈夫かと(笑)。
吉川 
そういう人なんですよ。これでいいやって映画を終わらせることが、したくないのかできないのかはわからないけど、でもそういう人ではある、常に。絶対に時間的な制約は経済に直結するから商業映画ではなかなか粘ることができないわけですよね。まあでも3年かかったら鈴木卓爾は映画が一本撮れるんだっていうのは分かった。
一同 
(笑)
市沢 
なんかこう、完成まで約3年を費やしたって聞かされて観にいくと、その渾身さではないよね(笑)。私財をなげうってこの映画に賭けたぜ、ってことじゃないっていうか。
川口 
『地獄の黙示録』ではない。
千浦 
だべったり悩んだりしての3年だったわけね。観ればわかる。
吉川 
言ってる方も分かってて3年がかりって言ってる。ゴージャスっていうわけではないですよって。裏設定は、つまりそれこそが現代映画だっていう。
川口 
3年は必要だったと思いますよ。今思うと。
中川 
そこにふいに区切りが来たわけですよ。実質、吉川さんの登場によって。
千浦 
公開するってことで。
中川 
そうです。国際映画祭はどこも引っかからずで、観て欲しい方に観てもらおうっていうタイミングで立教で篠崎さんに観ていただく時に吉川さんも来てくださって。なので次のステップは、かなり不意に訪れました。
吉川 
立教の新座キャンパスでやるって聞いて、てっきりスタッフや役者みんなが見る内々の完成披露くらいの気持ちですごい気楽に観に行った。ちょっと遅れて真っ暗で分かんなかったんで一応一番後ろに座ってずっと観てて、電気ついたら4人しかいなくて(笑)。卓爾さんと篠崎さんと中川さんともう一人『駄洒落が目に沁みる』の主演の廣田朋菜さん。あれ、こんな感じの試写だったの?って。でも、あの日の新座はうんと決定的だった気はしてて。そのメンツでずっとしゃべってて、志木の駅前でね。
市沢 
そうか、劇的だなあ。完成年がさ、チラシには「『ジョギング渡り鳥』 2015年 日本」て書いてあるけど、あれ、そうだっけ?って思うもんね。
中川 
そうなんです(笑)。
市沢 
「日本」もちょっと危ういくらいの感じだよね。
川口 
あるいは「深谷」か。
千浦 
深谷は別の宇宙ですって。深谷星。
川口 
あの、撮った場所を書くスペースじゃないですからね(笑)。
市沢 
国籍を問われたら…
千浦 
モコモコ星。深谷とモコモコ星合作みたいな。
中川 
まあまあ、その辺で(笑)。でも、本当にあの新座の試写は大きかったですよね。
吉川 
うん。僕も事前に映画祭の反応は伝え聞いてはいたんですけど、つまり、プロってこの映画観た時にたぶん似たような反応すると思うんですよ。いやあ、これ1時間半だったらちょっと考えてみようかなとかね。それも想定内ですけど。でもたぶん、ていうか絶対、卓爾さんへこんでて。
中川 
はい、あの時は相当。
吉川 
うん、で、その日の夜に話して、もう、他人がどうっていうんじゃなくて自分らでやるってことで方向性が見えたというか。やりましょうって話になって。そのときにもう勝手にね、K’s cinemaでやるのが良いんじゃないですかって。
中川 
本当に煮詰まってたんですよ。これからどうする? どう思う? みたいなことずっと言ってた頃の新座だったので。吉川さんも篠崎さんも廣田さんもすごい面白がってくれて、具体的な励ましの言葉をいっぱいもらったわけですよ。初めて他者に認められた感じがすごく大きくて。これ、いけるかもね、みたいな。何かが芽生えた。
吉川 
まあ、まだこれからですよ。これからはもっと外側の人になっていく。
川口 
反応次第でまた編集変えるとか言うかな(笑)。
小田 
もうないでしょ。
中川 
いや、ないことない。
市沢 
具体的に言われると、もしかしたらあるかもね。
川口 
もう何回ダビングやり直したか。
吉川 
プロデューサーも自分だからね。
川口 
スタッフはもうね、やるって言われたら、できませんって言いません。
市沢 
本人じゃなくて、卓爾さんの影武者みたいな人に試写会場にいてもらえばいいんじゃない?本人がいると聞いちゃうから。
千浦 
ああ、監督芝居とかどう?小田さんが。 「どうも。私が監督です。今日はようこそいらっしゃいました。」って。
小田 
鈴木卓爾です(物真似)。
千浦 
『マルコヴィッチの穴』みたいに卓爾さんのお面被って。
吉川 
役者みんな来て監督の印象薄めたら良いんじゃない? 監督どこにいるかわかんないけど役者10人以上いるから。
千浦 
ストローブ=ユイレの『すべての革命はのるかそるかである』みたいな輪唱形式で。「本日は」、「お越しいただき」、「ありがとうございました」。輪唱であいさつする。
一同 
(笑)


 

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