この対談は、2015年9月19日に第37回ぴあフィルムフェスティバル「招待部門作品、映画内映画」にて『ジョギング渡り鳥』がプレミア上映された後、鈴木卓爾監督、諏訪敦彦監督によって行われたアフタートークを採録したものです。 

p.1/4 p.2/4 p.3/4 p.4/4


諏訪敦彦監督(左)と鈴木卓爾監督(右)

第4回

 

諏訪:それはねえ、たぶん鈴木さんも僕も弱い監督だからですよ。

 

卓爾:あ、そうなんですね。

 

諏訪:弱くないですか? 現場で。

 

卓爾:弱い……弱いです。

 

諏訪:弱いでしょ。僕は弱いです。

 

卓爾:あの、人の目を気にします。

 

諏訪:人の目を気にするし、人の言うことに、こう、すぐ気が飛ぶ……。

 

卓爾:すぐ従ってしまう。

 

諏訪:ペドロも言いますよ。僕たちは弱い監督だよ。で、強い監督ってどういう監督?

 

卓爾:ええ。

 

諏訪:ジョン・フォード。

 

卓爾:あ、はい。

 

諏訪:黒澤明監督や、もちろん小津安二郎だって強い監督なわけです。こうしなさい、こうなんですっていうふうに言える。いや、僕たちはまず人の言うことを聞くよ。でも、それが物を作る主体になっていくっていうのが現代の表現だと思うんですよ。弱い人しかものを作れないと思う、もはや。と僕は感じるのかもしれない。だから、まあ……。

 

卓爾:言葉の意味はあるかもしれないけど、一方で諏訪さんはすごい強いと思うんですよ。その強さっていうのはいわゆる、ジョン・フォードや黒澤明とか、そういうものではないですけど、伸ばしても切れない、ビョーンみたいな、ねばるねばる、みたいな。どうですか?

 

諏訪:(笑)。いや、まあね、やっぱり本当は弱いです。

 

卓爾:『M/OTHER』のメイキング見た時に、俺にもわかんねえよって、三浦(友和)さんとけんかしてるの見て。けんかっていうか、俺だってわかんねえんだよって(笑)。

 

諏訪:(笑)。……世界はもうわからないんだっていう弱さ。

 

卓爾:はい。

 

諏訪:と思うんですよ。

 

卓爾:そうですね。

 

諏訪:それがものを引き出してくれるというか、こういう関係を可能にしたんじゃないかって。でもそれはある意味で、強さですよ。そこまでやってもいいのだって、さっきいったような、バカボン的な強さというかですね。これでいいのだって言えば、監督って結構それだけで良い、みたいなとこあるじゃないですか。

 

卓爾:あ、それはありますね。

 

諏訪:あとはやってくださいって。

 

卓爾:ええ、ええ。

 

諏訪:逆もありますよ。みんな不安になって、ほんとにこれでいいんですか?って。うん、良いんですって言うだけっていうかね。でもね、そういう映画が、もっとあっていいんじゃないかなっていう気がしました。今日見ながらね。かつてはいっぱいあったんじゃないかって。

 

卓爾:かつてはいっぱいあったし、やはり映画は作るごとに更新されていかなきゃならない、同じことやってはいけないっていう意識はもっと強くあったような気がするんですよね。

 

諏訪:そうですね。

 

卓爾:そのために何をするかというと、たくさん映画を見て、たくさん本を読んで、いっぱい一人で勉強して、ただ現場でそれをひけらかすわけじゃなくて、こうみんなとワーって思ったことを出し合っていくみたいな感覚っていうか。

 

諏訪:それに近いというか、俳優たちが自分でそこにいて動いてるんだっていう感じが、やっぱりこの映画を豊かにしたんじゃないかな。そのためには、鈴木さんが限りなく弱くなるという風にしてこういう関係ができていくんじゃないか。ほんとに弱いって言ってるわけじゃなくて比喩的にね。たぶんそういう関係だったんじゃないかって。もちろん鈴木さんが、それは映画なのだって認識があるからできることで、ふつうは怖いからみんな権力者になろうとして、監督のようにふるまわなきゃ、とやったりするわけじゃないですか。そうじゃなくてもいいのだっていうのがとても大事なことだったんじゃないかって。

 

撮影中、みんなで撮ったものをチェックしている様子。

 

卓爾:やっぱり、率いてしまうとみんなついてきてしまうので。言うことは言わないといけないけど、何か言うとみんなそのとおりにそうしてしまう。それはどうしたらいいんだろうとか。僕はつい言ってしまうので、言わないで動くってないのかなと。

 

諏訪:僕はわかんないんですよ。まかしちゃうんです。

 

卓爾:ああ、そうですよね。

 

諏訪:それはたぶん一つの自分の戦略だと思うんですよ。ところで、これ長いですよね。会場から質問受ける時間ありますか?もうやめたほうがいいですか?

 

荒木:おひとりだけ、ご質問いただく時間があるかと。

 

質問者:今のお話でだいたいは制作の過程みたいなものがわかったんですけども、もう少し詳しく具体的にどのように撮影が進められたのかを少しお話しいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

 

卓爾:そうだよね、わかんないですよね。どうやって作ったか僕もあんまり記憶がないんですけど一応台本や役柄みたいなものは学校で動いてできていて。エ チュードで作ったシチューションを文字起こしして、だいたいこういうことやるっていうシーンを場面構成的に並べたのはみんなに配ったんですよ。それを元に スケジュールを考えて場所はロケハンして決まって……ってとこまで準備をして現場に行って。基本的にはみんなの役は、役作りというよりは、自由なのでご自 身で考えてね、つまりご自身でも構わないわよっていうところがあって、あとはその……どうしたんだろうな(笑)。

 

諏訪:セリフは全部即興ですか?書いてあるのもあるんですか?

 

卓爾:書いたのも一部はあると思うんですけど。

 

諏訪:それは自分で書いた?

 

卓爾:エチュードでやったやつを僕が持って帰って文字化しました。そのうち、この言葉はあったほうが良いなとか、そういうのはリクエストして、書いてやるっていう風になっていきました。あ、思い出した。例えば、撮影って二期にわたってるんですよ。一期目が2013年の1月で、それから一回みんなに3つの班に 別れて編集してもらったんですよ。3班とも面白くて、それぞれ違っているんですけど、例えば現在のバージョンでも「あなたは神ですか?」っていう場面は、 その時にある班が作ったままです。

そのあとに、最初の撮影だけで撮ったのはどれだけ大穴が開いた建築物かみたいなことをみんなで眺めて、これ作品にしていこうってここらへんでようやく真面目 に取り組もうとしたというか。ひょっとしたら映画館目指すか、どうする、いいの? 学校終わってるよ、もう。終わっちゃってるよ、こっから先は君らの意思 だ、みたいなことをいいながら11月に追加撮影をさせてもらった。強瀬さんに頼んで、深谷に行かせてもらって。それで一応クランクアップをし、そこからまた長かったんですけど、そのあと一度僕が編集して3時間15分バージョンっていうのを作りました。学校の中では非常に受けがいいんだけどこれが外に出せる だろうかって、今度はわりと普通に考え始めちゃって。それから鈴木歓さんという編集マン、黒沢清監督の『CURE』(1997)や『蛇の道』(1998) とか廣木隆一監督の『800 TWO RAP RUNNERS』とかを手がけた方なんですけど、歓さんに面白いところを選りすぐって自由にやってくださいって6時間分の素材を丸投げしたんですよ。そしたら今の形の原型が上がってきて2時間20分でした。そこからちょこちょこ僕が手を加えながら、今日の形になっていったと。たぶん今日の編集はもう直さないと思います。

 

諏訪:あ、そうですか。

 

卓爾:すいません、そんなんじゃわかんないですよね。

 

質問者:ありがとうございました。

 

卓爾:聞きたいことじゃないですよね?

 

荒木:まあ、あまり通常の作り方ではないと。

 

卓爾:何度も何度もみんなで叩いてます。撮影終わった後の方が長いです。編集もですが、今もこれで終わりではなくて、みんなで宣伝・配給をやろうとしています。あ、そうだこのタイミングで。

 

荒木:そうですね。

 

卓爾:2016年陽春に新宿ケイズシネマで公開することが決まりました。これを映画館でやってくださるところがあるという。(会場拍手)ありがとうございま す。半年動いていて、ほんとにPFFが決まったのと同じくらいのタイミングで決まりました。強瀬さん、鈴木歓さんなどに次ぐ新たな刺客、宣伝配給のプロを 巻き込んで、みんなで宣伝・配給をやっていこうと。チラシ配りなど、僕も含めてやっていきたいなと思ってるところなんですね。撮影の方が短くて、楽しい思い出だったねっていう感じなんですよ。はい、すいません、長々と。

 

荒木:はい。デジタル時代になって、そういう風にいろんな人が編集できるようになったし、どんどん映画の自由度が上がってくる面はすごく大きいなと、今のお 話しを聞いて思いましたが、お二人の話、映画の作り方はすごく自由だという話、勇気づけられた方も多いんじゃないかと思います。先程強い監督ではないとお 二人は仰っていましたが、欲しい映画がそうとう強くないと長い時間多くの人とのつながりがキープできないのではないかと思いますので、やはり強い監督なん じゃないかと。

 

卓爾:ビョーンって、耐久性が。

 

荒木:ゴムのような監督と鉄のような監督と2種類いる感じですかね(笑)。

 

卓爾:そうですね。

 

荒木:今日はお二人、普通ではなかなか聞けないお話しをありがとうございました。

 

卓爾:どうもありがとうございました。

 

諏訪:ありがとうございました。

 

(了)

 

 (2015年9月19日、第37回PFF プレミア上映時対談より)

 


前の回はこちら

p.1/4 p.2/4 p.3/4 p.4/4